台湾到着・空港にて

時計の針を1時間戻す。時刻は15時(現地時間)前、定刻に台湾は桃園国際空港に到着である。

4時間のフライトが終わり、降機の準備で機内はにわかに騒がしくなる。ここで私は日本での準備に不備があり予想外のつけを支払わされることになる。

 今度の旅は、空港でクレームタグを握りしめながら流れ行くカバンを虚ろな目で見つめ、カバンが何かの間違いで全く見当違いな便に載せられアンカレッジへ持ち去られたのではと気をもむのが嫌だとばかり機内持ち込み可能なカバンにきめていた。

それは全く結構なのだが荷造りの際に恐ろしいことに私は人格が分裂してしまい、日本は寒いが台湾は暑かろう、服はすっかり脱いでカバンにしまうのだという自分と、旅先で日用品だ充電ケーブルだ、そんなものでカネを使うのが一番つまらないのだからアレもコレも持っていこうとナイフランプカバンに詰め込んだ自分が出現してしまったのだ。

結果脱いだ上着がカバンに収まらず四苦八苦しているうちに他の乗客はすっかり降りてしまい、ほとんど最後の方にいびつに膨らんだカバンを抱えながら降りることになってしまった。

 

ボーディングブリッジを埋め尽くす人たち。彼らもまたこれから始まる台湾旅行に心を踊らせているのだろうか。あるいは長旅を終え間もなく到着する我が家に思いを馳せているのであろうか。

やがて一列の行列が見え、人々はそこへ吸い込まれていく。もちろん自分も律儀に列の一員となる。入国審査か?

 

「Singaporeへのトランジットのお客様はこちらにお並び下さーい!」

 

そういえばこの便は台北経由のシンガポール行きだと空港の案内にも表示があったな。なるほど皆最終目的地はシンガポールなのか。みな入国カードを書いてないのもうなずける。

そう、実は入国カードを書かないまま降機してしまったのである。

機内で入国カードをしたため空港についたら然るべき官吏にうやうやしくカードを差し出すのが作法だというのはさすがの私でも知っている。

しかしながら機内ではカードが配られなかった。配っていたけれども気が付かなかっただけかもしれないが兎にも角にも私には入国カードが無い。どうする?『地球の歩き方』には機内で書けなかったときの対処法は書いてあるのか。『地球の歩き方』読んだこと無いけれど。

 

まあ入国カードがないだけで御用になったり、制限エリアでの生活を余儀なくされたりはしないであろう。それに国際空港というのは異文化交流の中心地だ。言葉が読めないとか文化風俗が違うとか、注意力散漫な海外旅行初心者がうっかりしていたとかで入国カードを書き漏らした人間にも親切に対応してくれるに違いない。

果たしてそれは入国審査の列の前にきちんと用意されていた。フール・プルーフなる偉大な設計思想を生み出した人間に感謝である。

何分何事も初めてづくしであるから、「機内で入国カードをもらえなかったけど、空港にカードがあったので問題なかった」ということをいうだけでも900字を費やして語らねばならぬ一大イベントに化けてしまう。

 

入国審査の列は予想していたよりずっと早いスピードで進む。「入境」と書かれた看板に対し、入国は中国語だと入境と表記するのか、あるいは「国」と書くことすらなにかと波風が立ちかねないこの地の微妙な政治的境遇が生み出した苦肉の表現かと思案を巡らせているうちに順番が来てしまった。

この入国審査官は大層愛想が良く、無言でパスポートを受け取るとこれまた無言で写真機を指差し、そののち指紋採取の機械をまたまた無言で指差す。スキャナが正常に採取を終えたと見るや、手早く旅券に入境の捺印をしこちらを見ることもなく返して寄越した。

別に邪険に扱われた気はせず、殿様扱いをしてほしかったわけでもないが、「斉藤寝具、斉藤寝具」と口をモゴモゴさせ問答の準備に余念がなかっただけにあまりに何も聞かれないので拍子抜けしてしまった。いっそ国家転覆を図る凶悪な工作員のフリでもして、それでもかの管理官が無関心を装えたか観てみたい衝動すら湧いてきたがそういう余計なことをして空港運営を乱すのはやめておいた。

 

到着ロビーに出た私は宇宙人がはじめて地球を眺めるが如く周囲を興味に満ちた眼差しで以て見回した。うむ、どこかで見たことがあるような合理的で、清潔で、大人数の交通を効率良くさばくことを念頭においていることがよく分かる。生物の収斂進化と同様、国は違えど空港はやはり日本とそう変わらないようだ。

喉が渇いたので自販機に目をやると、日本の飲料が当たり前のように売っている。日本語表記もそのままで売られているものもある。が、せっかくここまで来たのだから現地の飲み物を買ってやろうじゃないか。

両替したばかりで効果の種類がいまいちつかめず悪戦苦闘しながらも購入。「はじめてのおつかい」ミッションクリアだ。

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黒松沙士」、なんて読むのかわからないけれどこの見た目からして炭酸飲料で、コーラのような味がするに違いない。これだけで「なんとなくコーラっぽいな」っていうイメージを抱かせるに至るまでにコカ・コーラ社は一体どれほどの広告費を投じたのだろうか。それだけの広告費を投じて作ったイメージをニューコークでぶっ壊しにかかったり、なんだかんだリカバリーしてしまったりするコカ・コーラ社は無敵である。

話がそれたがこの黒松沙士味はルートビアに近いもので大変美味であるので台湾に行ったからには必ず飲むべきである。幸いフリークエントサービスを実施していて台湾中のあらゆる自販機、売店その他でどこでも購入できるので便利である。

 

喉を潤したところで次は空港を出ます。どうも筆が遅くてかなわない。

 

 

 

 

 

 

 

日本出国、海外進出

そもそも旅行なんて言うものは予定を立てているうちが一番楽しいのであり、いざ家を出てみれば自らの予定に追い立てられる。重たい荷物に手足は奪われる。そのうえ普段は建物の2階へ上がるのにもエレベーターを使うほどなのに旅先ではあの丘からの景色が良いなどと言って10階分の高さを駆け足で上がったりするものだから旅行が終わる頃にはすっかり心身が参ってしまう。

それでも予定を立てるだけではけして満足せず、しばらくすれば旅行へ行きたいと身悶えるのであるから旅行というのは全く不思議なものである。

 

私は海外なんぞにはてんで興味がなく、というよりこれを見ずに死ねるかという場所が国内にゴマンとあるため海外に行く気はサラサラ無いという立場である。

しかしそれを聞いた上司が、キミ、国内もいいが海外に出ていくのも大事だ、日本は世界の陸地のうちわずか0.1%*1だ、旅行好きといいながら残りの99.9%を見る機会を放棄していていいのかねとけしかけたものだから、まんまと口車に乗せられ旅券の申請なんぞしてしまった。

 

2017年1月午前7時40分 大崎駅西口

旅券を窓口で受け取ってから2日後、私は人生二度目の海外に向け大崎駅の西口にいた。

今回の行き先は台湾。台湾は海外旅行初心者でも比較的安心して旅行を楽しむことができるうえ、彼の地は大層過ごしやすく一度行くと何度も渡航してしまい姉妹には移住してしまうという。それほどまでに魅力的な地ならばなれない旅行手配も乗り越えて渡航してみたいではないか。

 

過去に一度海外旅行に出たことはある。そのときは旅行会社のパック旅行で、添乗員の方が行く先から手足の動かし方まで面倒を見てくれるので旅券さえ持っていれば目をつぶっていても旅行ができてしまう便利な代物だったが、当然まるで経験とならなかった。今回がはじめての海外旅行と言っても過言ではない。

ウィラーが空港アクセスに参入し、大崎から片道1,000円の「成田シャトル」を運行し先行する格安空港リムジンバス2社に勝負を仕掛けたのは昨年の10月末だが東京駅の行けども行けども目的地にたどり着かない広大な構内や、どこから湧いてきたのかと疑問を抱かずにはいられない人の大群に嫌気が差した人たちをターゲットに大崎なるややマイナーな駅を発着地に選定したのは慧眼といえるであろう。

 

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これから旅が始まるとなればなんてことのないターミナルの看板も俄然美しく、趣きのあるように見える。

バスはごく普通の車両があてがわれており乗車率は2割ほど。しかし帰国の途につくであろう外国人の姿も見え少なからず驚いた。「大阪から新大阪まで歩いていけますか」という質問が根絶できていないなか日本人であっても大崎の場所を正確に知っている人が何人いるかしれたものではない。

 

定刻7:45に発車したバスはほどなく首都高速に乗り、成田空港を目指す。

予定では9:15に第2ターミナルに到着するはずが、随分と早く8:40頃には着いてしまった。遅れてはならないと余裕を随分見込んでいるようだ。

 

今回搭乗するのはScoot。LCCに乗るのは初めてでなれない予約画面と格闘したため果たしてきちんと予約ができているものかと不安であったが予想に反してすんなり搭乗券が払い出されてしまった。流石に相手もサービス業とあっては流儀を知らぬ者相手であっても取って食うわけにはいかないのであるから安心してかかって良い。

一方はサービス業ではないから本当に取って食われかねない出国審査。税関吏に捕まったりはしないよう今回は荷物は肩下げカバン1つに抑えたのだが、コレでは却って怪しいかもしれないと汗を書きながら出国審査の列に並んだが、審査官氏は特に一言も言葉を発することはなくまるで機械のごとく出国の判を真新しい旅券に押すと親切でも失礼でもない、これまた機械的な手つきで旅券を返した。こうして自分でもあれあれと思っている間に出国手続きは完了し、法律上は私は日本国内を離れてしまった。

何度も海外に出ていく人からすれば何をくだらないことで心を乱しているのだと思われるだろう。自分もこの先何度か海外に行くことがあればもはやこの一連の流れになんの感慨も抱かなくなるに違いない。しかしこの「くだらない」出国手続きで緊張したり、制限区域に感慨を覚えたりという気持ちは初めての海外旅行でしか味わえないのだから大切に心に刻んでおかねばならない。

 

搭乗時間まではまだ1時間以上も時間があるのでここで私はなるべくターミナル内を歩き回って時間を潰すことにした。

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効率一辺倒ではつまらないとして作られたに違いない素晴らしき空間。お上にこのスペースの必要性を立証する必要にかられひとまず設置したのであろうベンチもいい味を出している。

 

私はどうも乗り物に弱く飛行機に乗った日には速やかにノビてしまうので搭乗したらさっさと寝てしまうことにしている。どうせ外は空と海しか見えない。つまりは事前に十分疲れておこうという算段である。

散々歩き回った後、ついに搭乗してみると座席が広くLCCなんか詰め込み仕様で膝から下を切らねば席につけまいとの先入観を打ち砕いてくれた。というよりもこれまで乗ったどの機材よりも広い気がする。これなら快適に眠れそうだ。

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英語の機内アナウンスを聞き取ろうとしているうちに飛行機は離陸。それに合わせてうまいこと寝ようと試みるが……

まぶしい。

窓が南向きになってしまい太陽光線が容赦なく照らしてくる。このままではビタミンDが過剰生成され人体に有害であるがカーテンのたぐいが見当たらない。こんなところでコストカットかと訝っていると窓の下にボタンが有る。おそらくはこのボタンで窓の遮光率を変化させるのであろうと察しがついたのだが。

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壊れとるやないか、ケシカラン。

押してみても反応はなく、ムキになってグイグイ押し込んでみたところ部品ごとドンドンめり込んでいってしまった。このまま押していくと期待外壁を突き破り客室内の急減圧を来し私は失神、其の間に破孔からは機体が分解を始めついには空中分解、「乗客の癇癪 - スクート201便空中分解事故」として『メーデー!:航空機事故の真実と真相』シリーズ入りを果たしてしまう危険性があったのでなんとか理性を取り戻しボタンを押す努力を取りやめた。

結局陽の光に顔を灼かれろくろく眠ることがかなわず、成田では無駄に体力を消耗しただけに終わってしまった。

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やがて明らかに日本とは異なる方角に山が見え始める。台湾島だ。島は厚い雲にとらわれ高山帯の一部が顔を見せるのみ。

飛行機が次第に高度を下げる。雲中に突入し機体はかすかな揺れを繰り返す。

おそらく機長は着陸に向けて慌ただしく操作を行っていることだろう。私も乳白色の外界を眺めながら飛行機酔いを自らの管制下におくべく禅の心を養う。

雲を抜けると灰色に染まった畑が、家が見える。道路は鈍い光をかえし窓ガラスには雨粒が流れ出す。

ドン、と衝撃があって機体は接地し滑走路を駆けてゆく。全力の制動動作で騒々しかった機内が静寂を取り戻す頃には外に繁体字でかかれた空港施設、道路の右側を走る管理車両が視界に入ってくる。いよいよ台湾に到着したのだ。

 

次回は台湾に降り立ちます。

*1:実際には0.25%ほどらしい

三大秘境に挑む-3-

12:15 椎葉村滞在可能時間残り35分

 

椎葉村は九州の山奥にあり、wikipediaによると可住地面積は村域のわずか4%に過ぎない。しかし、その4%といえども各地に分散しておりとても35分で巡れるような場所ではない。

 

個人的には日本で唯一焼畑農業を継続しているという不土野地区や重伝建地区*1である十根川地区へ行ってみたかったが、どちらも上椎葉地区からは10km山道を行かねば着かぬということなので諦めた。村営バスが走っているらしいが時刻表はなく、料金も経由地も不明である。21世紀の今日に運行形態がまるで想像できないミステリーバスが存在するものかとも思うが、仮に都合のいいバスがあったところで30分では禄に見れないのだから気にすることでもない。

 

のんきに村営バスを見物しようなどと思わなければ近傍の上椎葉ダムくらいは見れたかもしれないが、これも諦めて目と鼻の先にある「椎葉厳島神社」へ参ることとした。やはり伝説の通り村の人々は平家の末裔なのであろう。神社はきつい石段を上り詰めたところにあり、良い運動になる。

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神社そのものは村の神社らしく小ぶりであったが最近建て直されたようで平成建築の匂いがした。

 

周りの玉垣も新しいがよく見ると寄進者の氏名が彫り込まれている。

驚くべきはその殆どが「椎葉」姓であったことだ。正確に勘定はしていないが半数以上は椎葉姓であった。平家の隠れ里ともなれば人の出入りも少なかったのであろう。今はどうだか知らないがかつては村全体が親類縁者だったのではないか。

 

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参拝を終えるともうバスの発車までは15分ほどしかなく、石段を転がり落ちるように下り町中へ戻る。

土産に椎葉名物の菜豆腐でも買おうかと思い開いているのかいないのか分からない商店を覗き込む。店主に菜豆腐について尋ねるも今は売っていないとあっさり言われてしまい参った。自分は旅行の下調べが足りない。「下調べなぞしないほうが現地で新鮮な感動や思わぬ発見を得られる」というのが持論だからだが時としてこうして宛が外れたり、特大の見ものを逃してしまったりするから一長一短である。

結局店に1つあった普通の豆腐と、帰り道で引っ掛ける酒を買ったが、豆腐は密封されたビニール袋に放り込まれているだけでありこの後家まで半日の旅の間中豆腐を潰さぬよう神経をすり潰す羽目になった。

 

結局神社を参拝しただけであったが12:50、帰りのイオンタウン日向行きバスに乗車。このバスは折り返しが塚原で打ち止めとなり、このバスに乗ると椎葉村へは帰れなくなる。そのためか乗客はまたしても私1人であった。

 

途中で人が乗ってくることも無いためかバス停で減速するなんて手ぬるいことはせず全速力でバスは通過していく。まえがきの記事にも書いたが上椎葉から塚原までのバス停は1日平均乗車人数0.1人未満というJR北海道のローカル駅もびっくりの利用実績なのである。利用者がいたら狐かなにかであるといっても過言ではない。

最も、始発となる上椎葉バス停も1日平均乗車人数は0.2~0.9人だそうなのであまり大差はないかもしれない。私が乗っただけで、今日の上椎葉バス停は平均を超える利用があったということなのだ。

 

バスは1つも途中停車をしないまま1時間後、再び諸塚村塚原バス停に到着した。

往路同様、10分の休憩がある。

 

ここで1人の年配の男性が乗車。私の姿を見てひどく驚いているようだった。狐と思ったかもしれない。

 

男性は私の座っていた後部座席の隣に座ると、「椎葉村から来たのか」と尋ねてきた。

旅行で椎葉村にバスで来た旨を伝えると、興味深そうに「長年このバスに乗っているが椎葉から人を乗せてきたのを見たのは記憶に無い」とつぶやいた。

 

そりゃあんまりだいくらこのバスに乗ったら最後その日のうちに椎葉村まで帰れない*2とはいえ一介のバス路線がそんな惨憺たる利用実績であって良いものだろうか、とも思わないでもなかったがそれよりもその口ぶりからこの男性は椎葉~日向市のバス路線を定期的に利用しているようであるという事実が気にかかった。

 

詳しく話を聞いてみるとこの男性は塚原のバス停の近くに住んでおり、週に何度かバスを利用して途中にある美郷町の西郷温泉に通っているとの事だった。帰りは塚原止まりの系統が遅い時間もあるのでそれに乗って帰るとの事だった。

 

ポンチョについては「このバスは前の席は外も見えづらいし落ち着かないしで好かん」「後部座席は私の指定席」とのことで、年配の方の乗り降りに配慮したノンステップも当の年配者には居心地の悪さで敬遠している人もいることが判明した。日野自動車哀れ。

 

「いつもは誰も乗っていないから貸し切りみたいなもので快適だ」

「年齢の問題で数年前免許を返納したがバスがあって便利でいいので困っていない。むしろバスは広々していて自分で運転したり、誰かに乗せてもらうよりはるかに良い(ご本人も近所の人も軽自動車ユーザーのようだった)」

「買い物で時々日向市にも行くがバスが便利だ。パスがあって温泉までは300円、日向市までは500円でいけるから助かっている」

 

とバスサービスについては極めて高評価であった。件の平均乗車人員のデータによれば塚原バス停の利用者は「1.0~9.9人/日」であるから、この男性は乗車人員数を増やすのに大いに貢献していることであろう。会話で出てきたパスは高齢者免許返納メリット制度による「悠々パス」のことだろう。

www.miyakoh.co.jp

利用実態としては正直なかなか厳しい路線ではあるが、こうして好感を持って利用している沿線住民がいることで、なんとなくこの路線も救われているのかなと感じる。

 

バスは温泉につき、男性は気をつけて帰りなさいと言いながら降りていった。

バスは再び私を上下左右に揺さぶりながら高速で山を駆け下りてゆく。

日向市近郊で1人乗客を拾ったが、それだけである。

バスは2時間20分余で日向市駅前に到着し、帰宅のためここで下車した。

結局往復でこのバスの利用者は私含め往復で3人ずつの計6人であった。ポンチョをもってしても完全に輸送力過大である。ハイエース等を用いたジャンボタクシーはおろかコンフォート等のセダンタクシーでも間に合ってしまうほどである。

 

そんな思いに浸る私を1台のバスが横切る。上椎葉行の最終バスだ。

 

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写真は前日の下見の際に撮影したものだが写真の通り普通のバスである。前日見た時は何らかの理由でポンチョが使えず代走で入ったものかと思っていたが2日連続で走っているとなれば定期的に運用に入っている可能性もある(検査等で2日以上ポンチョが投入できないだけかもしれないが)

チラと見る限り車内は無人であったから輸送力過剰の極地とも言える。

あの大ぶりの車体でポンチョでも難儀した椎葉の旧道狭隘区間を行くのは運転手にとっても苦痛であろう。お疲れ様である。

 

かくして、往復5時間のポンチョ旅行を完遂したわけであるが、乗ってみれば楽しい旅行であった。

 

旅行前某凍土高原氏と椎葉村ポンチョかはかた号かという話をしていたこともある。ぜひ彼のはかた号レポに期待したいところ…ではあるがなんでも最近のはかた号は快適でかつてのような愉快な旅行は望めないとの事だった。

ここはぜひ今度のダイヤ改正で登場した369M列車の全区間乗車記に期待したいところである。

 

 

 

*1:重要伝統的建造物群保存地区

*2:終点のイオンタウン日向まで行った場合。途中のバス停で降りれば別車両による上椎葉行き最終バスに乗れるが

三大秘境に挑む-2-

どうも筆が進まぬので困った。文章を練るというのは大変だ。

 

始発の時点ですでに予定より遅れて発車したイオンタウン日向発上椎葉行きの宮崎交通バス。

おそらく日野ポンチョが投入されている最長の路線であろう。これより長距離/時間の継投で日野ポンチョが使用されているのをご存知の方はぜひご教示いただきたい。

 

上椎葉行バスは、運転手の予告通り最初の交差点で本来のルートと思しき方角から外れ、上椎葉と反対、すなわち海の方角へ走り出した。

 

ほどなくして、バスは私を乗せたまま車庫へ突っ込み、営業所の前へ頭から停車した。

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運転手は慌ただしく運賃箱の一部を取り外すと、中身をもって営業所の中へ消えていった。

バスについては詳しくないのでわからないが、運賃の回収を行っているのだろう。

別に椎葉村まで往復しても運賃箱があふれることはまずないはず(失礼)だが、経理上のあれこれがあるのだろうか。

 

少しして、運転手がまた慌ただしく戻ってきて、すみませんねと言いながらバスをすごい勢いで後退させていく。誘導もいないが大丈夫か。

ポンチョはリヤガラスが非常に小さいのだが、そんなこと知ったこっちゃねえとばかりにぐいぐい下がっていく。思わず自分も後方を確認してしまう。車庫内のバスの間にその身をねじ込ませ切り返しを行ったポンチョは、10分を超えた遅れを取り戻さんと猛然と日向市内を駆けだした。

 

実のところ、日曜日ということもあり自分と同じような「乗りバス」な人が乗ってくるかと思っていたがそんなことはなく、趣味以外の実用目的で乗ってくる人もなく、バスは日向市駅を過ぎ、日向市の中心市街をあとにして一路山へ突き進んでゆく。

 

塩見川を左に見ながら、バスは国道327号を行く。国道はこの先で塩見川から離れ、次は耳川を伴侶とし、このまま椎葉村へ続いていくのだ。

道中はよく整備され、椎葉村までのほとんどは広い幅を持った2車線の快走路である。防災への取り組みであろうか、残された狭隘区間も最近は急ピッチでバイパス整備が行われているようだ*1

 

誰も乗ってこないこともあり、バスは50-60km/hで巡航を続けており、乗っていて非常に爽快感がある…

のはいいのだが正直かなり揺れる。

ポンチョはどことなく乗り心地の良い印象を抱いていたのだが、それはただ単に町中をちょこちょこと走っていたからであって、高速巡航となればそこらのバス並みにはエンジンは唸るし跳ねたり沈んだりもするわけだ。

 

 ポンチョの乗り心地に関する評価を改めつつも、乗客は私一人なので空間は広々、快適である。子供が振り回す虫カゴの中の虫のような扱いを強いられていることを除けば。

 

時速50kmで飛ばす点Pになって1時間半、バスは九州山地の山中、諸塚村の中心地塚原へ到着、ここで10分休憩となる。途中で2名ばかり乗ってきたが、30分ほど乗ったところでまた降りてしまい、どうやら乗り通すのは私一人のようだ。終点まではまだ1時間あるが一応椎葉村の隣村まではきている。

休憩と言ってもバス車庫があるだけで、周囲に観光客目当ての店はない。

仕方ないのでバス車内で転がっているとバスは発車。振り落とされぬよう居住まいを正す。

 

ここからも快適なバイパス道路が椎葉村まで続いているのであるが、バス路線はここで道を離れ旧道経由となる。

 

旧道になった途端、道があからさまに悪くなる。ポンチョでも通るのがやっとのようだ。バイパス開通まではそれなりに交通量もあったろうに離合箇所も少なく、現役当時は*2さぞドライバー泣かせの道であったことだろう。少なくとも自分はここを運転するくらいなら南池袋PAから本線合流をするほうが心安らかでいられるだろう。

 

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右手に岩壁、左手に千尋の谷を見ながらバスはか細い道を往く。道路には苔も落ち葉もなく、一定以上の交通量があることを示している。事実何度か地元車と思しき軽自動車とご対面したわけであるが、互いになれたもので、阿吽の呼吸ですれ違っていく。すごい。

しかし、椎葉村まであと僅かに迫ったその時、カーブを抜けると1台のSUVがこんにちはしているではないか。

離合箇所は後方100mに過ぎ去っており、ここはSUVが下がるのが妥当に思えた(前方には離合箇所が見えていたのだ)。

が、そんな場の空気をあざ笑う新たな刺客のエントリー、大型ダンプ2台だ。

運転手、後部座席まで聞こえるほどの盛大な舌打ち。シフトレバーをRへ。

岩壁と絶壁迫るカーブに後進で突っ込んでゆく。

チョット待ってほしい、運転している方も怖いだろうが乗っている方はもっと怖いのだ。路線バスにはシートベルトなる素敵な安全装備は無いのだ、いや運転席にはある、客席にだけないのだ。万が一手を滑らせバスが滑落したら運転手は助かる見込みがあるが私はもれなく死ぬ。

 

生死をかけた電撃イライラ棒をすること100m、バスは離合場所に到達し100万円の代わりに人命2つを手に入れた。やはり車は前に進んでこその乗り物である。

 

到着直前に危うい場面があったものの、それ以外は飽きもせず、苦痛も感じず、終点、上椎葉バス停に到着。ポンチョであっても空いていれば存外快適なものであった。

時刻は12時ちょうど。定刻より4分延着である。

 

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運賃表がPONと乗ってCHOこっと行くどころでない愉快なものとなっているがこれも旅の醍醐味であろう。片道乗車で1日乗車券(1800円)の元が取れてしまうというものこの路線がいかに長距離路線であるかを物語る。

なお、この路線はnimocaが使える。こんな山中でもICカード乗車券が使えるのだ。21世紀は僕らの手の中に。ICカード使用で自分のカード利用履歴に椎葉の文字を残したい衝動にも駆られたが、それだと1日乗車券1800円の支払いが無駄になるばかりでなく加えて2480円の運賃も支払いしめて4280円の損となるからやめておいた。

 

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上椎葉バス停より椎葉市街。誰もいない… 平家の落武者伝説もあるという村は静まり返っていた。ここは川沿いの高台でせせらぎの音もここまでは届かず広告ノボリが風に煽られ軒先にかち合う音が響くのみである。

 

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帰りの日向市行き最終バスはなんと50分後の発車である。椎葉村に公共交通機関で日帰り旅行をするという人は需要予測の外側にいるということか。行き先がイオンタウンになる前の「ロックタウン」になっているあたり、このバス停に対する宮崎交通の熱意が伝わってくるというものだ。

 

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ここ上椎葉は村営バスも発着しているようだが、ご覧のとおり1日1本である。左側の欄は到着時刻か。村営バスでこの本郷とやらに行った暁には果たしていかようにして戻ってくるのか。まったく恐ろしい片道バスもあったものである。

なお、発車時刻である12:15まで待ってみたがバスは来なかった。日曜は運休であろうか、それともこの村営バスは想像上の存在に過ぎずその場合アナタが云々…

 

ともあれ、貴重な椎葉村滞在50分のうち15分を来ないバスを待つという生産性あふれる行為に費やしてしまったので残りの時間で歩きまわってみねばなるまい。

 

次回椎葉村を駆け足で巡って戻ります。

 

 

 

*1:何年か前に大水害があり、土砂崩れやらなにやらで大変なことになったらしい。乗車時も治山、治水工事をいたるところでやっていた

*2:今も現役だが

三大秘境に挑む-1-

前回の続き。いよいよ椎葉村へバスで行きますよという話。

 

朝8時過ぎころ、バスの始発であるイオンタウン日向に到着。イオンタウン日向は日向市駅から3km程離れた場所にある日向市民の買い物センターであり、同時に日向市近郊のバス路線が発着する交通センターでもある。

 

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イオンタウン日向バス停。日向市のバス交通の中心である。

 

目的のバスは9:21発であるので正直到着が早過ぎるのであるが、日向市に乗り入れる日豊本線も、駅とイオンを結ぶバスも本数がそんなに多くないうえ連絡が全く考慮されていないため、9:21のバスに乗るためにはこの時間につくバスに乗らねばならぬ。フリークエンシーなどという横文字を振りかざせばたちまちバタ臭いと斬られるのだ。

幸い朝8時という地方都市にしては大変良心的な時間にイオンが開いていてくれたので朝食を調達しテキトウに時間つぶしをしていたところ暇を持て余すどころか乗り遅れそうになったのであるが、9:20、バスのりばに到着。

 

バスがいない

 

ちょっと待ってくれ、台本に書いてない。発車まであと1分に迫っているのだからせいぜい発車間際のバスに駆け込むぐらいしか想定してない。お客さんも誰も待っておらず「乗り逃し」の字が脳裏にちらつく。

 

前日購入していたバスの1日乗車券が紙くずと化す危機に1929年のウォール街の株仲買人の気持ちを追体験しつつ固まっていると遠くからバスのエンジン音が聞こえてくる。良かった、バスは来たのだ。

 

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 日野ポンチョである。

地域のコミュニティバスとか、基幹バス路線では拾いきれなかった小需要を満たす小路線に良く投入されているバスである。

ポンチョの名前の由来は「PONと乗って、CHOこっと行く」である。町内の循環バスに使ってくださいといわんばかりのネーミングである。

これからこのバスにPONと乗って(1日2.5往復)、CHOこっと行く(片道2.5時間)のである。

 

とりあえず、他にお客はいないようなので席は選びたい放題である。とりあえず前面の展望を独り占めしてやろうと一番前の席に座る。

 

すると目の前を占めるは運転席へあがるステップ、整備に使うと思しきバケツと雑巾、運転手のカバン、そして天まで立ち上がるダッシュボードである。

そう、いかにノンステップといえども自動車という機械の構造上、タイヤや車軸のための空間も確保せねばならない。客室部分から追いやられたそれは運転席の株に安住の地を見つけ自らの居場所を奪った客室部分に対しせめてもの復讐として前面の展望を奪ってやったのだ。

 

率直に言って目の前が灰色で占められているのは実際以上に窮屈に感じるものだ。バスタブの底にうずくまっている感覚に近い。

 

前輪タイヤの反撃を受けた私はすごすごと最後部座席に撤退する。後輪タイヤの上の座席は極めて居心地が良い屋上庭園であった。

 

席を決めあとは発車を待つのみとなったが、発車時刻を過ぎているにもかかわらずバスは発車しない。運転手さんは携帯で何やら通話中である。込み入った話をしているようだが後部座席まで声は届かない。通話を中断しこちらに顔を向ける。

 

「お客さんどちらまで?」

タクシーかいな。

「上椎葉までお願いします」

タクシーの客かいな。

 

行き先を聞いた運転手氏は特に驚きもせず(当たり前だ)「ああ、上椎葉ね」と通話に戻る。

 

やがて通話は終わり運転手が語り掛ける。

「ごめんなさいちょっと車庫に行かなくちゃいけなくて。車庫寄って行ってもいいですか勿論乗ったままでよいので」

 

一体何事だろうか。断る理由もないので了承し、バスは車庫へ向けて予定より5分ほど遅れて発車した。

 

続きは次回。どうも言い回しが冗長かねぇ…書いてて疲れてしまった。

三大秘境に挑む-まえがき-

2016年3月 日向市

この日私は1年に渡りあたためてきた計画をついに実行に移した。

 

椎葉村という村をご存知だろうか。

 

椎葉村(しいばそん)は宮崎県の山中、九州島のほぼ中央に位置する人口約2,800人の村で、九州山地の山々に囲まれ、平家の落人伝説が残り、日本で唯一焼畑農業を行うなど、岐阜の白川郷、徳島の祖谷 とならび、『日本三大秘境』とされるところである。

 

三大秘境といっても白川郷なんかは観光地として注目されバスがガンガン出てたりするわけだが椎葉村はそんなに甘くない。

まずもって宮崎県自体がアクセスが不便な上、椎葉村はその宮崎でも指折りの奥地なのだ。地図を見てもらえばわかると思う。 

 

この村にバスで行ったろ!というのが今回の趣旨である。

この村に公共交通機関で訪れるには、村から75kmほど下った場所にある日向市から路線バスに乗ってえっちらおっちら登ってこなければならない。村外へ通ずるバス路線はこの1本しかなく*1、正に公共交通のどん詰まりなのだ。

そのバスも1日2.5往復しかない。正直「使われることを想定しているのか」と言いたくなる本数だが、これでも精一杯本数を維持していると言えそうだ。なにせ終点となる上椎葉バス停の利用客は1日0.2~0.9人、途中のバス停に至っては半分近くが1日0.1人未満なのだから(日向・東臼杵地域公共交通活性化協議会『日向・東臼杵地域公共交通網形成計画(案)』より*2 )。

 

どうですか、まさに秘境って感じでしょう。一体どんなところなのか行ってみたくなりませんか。バスに実際に乗ってみたくなりませんか。なりませんか。それは私の説明が悪い。ぜひご自身で調べてみてくださいきっと興味が湧くはずです。

 

次回は実際にバスに乗って行ってきましたよ、という乗車記です。 

*1:福祉バスが五ケ瀬町へ通じているという未確認情報もあるが、このバスが例えあったとしても通常は使えない

*2:宮崎県門川町公式ホームページ - 書類ダウンロード-日向・東臼杵地域公共交通網形成計画(案)

メシマズは本当にメシマズなのか

 

アニメ『おそ松さん』が好調なようで。

弊TLにおいても今期アニメは『おそ松さん』と○○、という視聴スタイルの方が多く見られ、ニコニコ動画においては第1話が100万再生を達成したとか。

 

さて、『おそ松さん』(『おそ松くん』)のようなギャグアニメ、ギャグマンガにおいては多彩なキャラクターが多彩なギャグを繰り広げるわけだが、この手の作品において極めて高確率で出現するのが所謂「メシマズ」キャラである。

カラスが鳴かぬ日があってもギャグマンガにメシマズキャラが出ない作品は無い。厳しい人気争いが繰り広げられるマンガ界に於いては「食」という、万人にほぼ説明不要で通用する普遍性、ストーリーの高い自由度、あらゆる世界観に溶けこませることができる汎用性を備えたテーマを活用しないわけがないのであろう。

 

そんなわけで、世の中には数多のメシマズキャラが存在し、その類型も多岐にわたるわけだが、なかでもよく見られるのが「あら、砂糖と塩を間違えちゃったワ(テヘ☆」などと抜かすキャラである。

 

多くの作品において(不幸な)主役級キャラ達がこうした「砂糖と塩を取り違えた料理」を口にし、ある者はブーッッ!!!!と料理を吹き出し、ある者は腹を抱えてうずくまり、ある者はその場で天に召されるわけであるが、これを読んで私は思うのである。

 

「はたして砂糖と塩を間違えただけでそんなにマズい料理ができあがるのか」

 

本日、幸運にも定時で職場を後にした私は十年来の疑問を解くべく立ち上がった。

 

まあ立ち上がったと言ってもコトは非常に単純で、夕飯を作る際に砂糖と塩を間違えるだけである。実験台となる料理は家庭料理の王者、「肉じゃが」とした。

 

今回は砂糖と塩を間違えた際の影響を見極めるのが目的なので、謎の隠し味を加えたり、料理中に他のことに気を取られて消し炭を錬成したりといったオプションは設けず、あくまで砂糖と塩以外は順当に調理するものとする。

 

材料を鍋に入れ、本来ならばここで大さじ一杯の砂糖を入れるのであるが、うっかりメシマズさんな私は間違えて塩を入れてしまうのだ。

 

 

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ここまでヘラヘラしていた私はいざ大さじ一杯に盛られた塩を見てはじめて嫌な汗が浮かぶのを知覚した。大さじ一杯の塩といえば18g、即ち厚生労働省の示した成人男性の1日あたりの塩分摂取目標量(8.0g/日)の2.25倍の量である。これは健康に何らかの悪影響を及ぼすのが明らかではないか?

 

しかし考えてみれば私は学生時代にどん*1や武道家*2を最大週8食食べてきた。つまり今ここで2.25日分の食塩の過剰摂取など誤差であるし、先月の健康診断時の血圧は90/45となかなかの低血圧を示していたから多少血圧が上がっても直ちに問題はないであろう。何よりもう食塩は匙に盛られたのだ。後戻りはできないのだ。

 

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塩に続いて醤油、酒、味醂を加え、火にかける。ちなみに当方面倒くさがりにつき予め具材を炒めたり、水や油を加えたりはしない。野菜や肉から出る分で十分である。

 

が、砂糖と塩を間違えた今では一つの不安がある。人類の解き明かした化学的性質の明らかにするところ、塩は砂糖に比べ圧倒的に水に溶けないのだ。18gの食塩は醤油、酒、味醂各大さじ1及び野菜から出る水で溶けきってくれるのであろうか…

 

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煮こむこと四半時間、ついに出来た「砂糖と塩を間違えちゃった肉じゃが」である。心配していた塩だが、無事溶けきったようだ。が、全く安堵は出来なかった。

 

まず、見た目からして肉がパサついているように見受けられ、錯覚かも知れないが全体的に具材がしなびて、また色合いも「飴色の光沢」を欠いているようだ。要するに「全く美味しくなさそう」なのだ。

 

とはいえ百見は一食にしかず。とりあえず実際に食べてみようではないか。レシピからは逸脱したとはいえ塩も料理の「さしすせそ」の一員。もしかしたらマズいのはあくまでフィクションで、実際にはまた新たな美味しさもあるやも知れぬ。

 

 

……

 

………

 

SHOPPEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!

 

 

マジでマンガのごとく吹き出すかと思った。

私は「みょうちくりんな食べ物」が結構好きであり、果物以外の珍品(抹茶小倉スパ、中学生が生み出すファミレスドリンクバー全部混ぜ飲料など)もわりあいうまいうまいと言って飲み食いするのだが、その馬鹿舌をもってしても到底「イケる」とはいえない。海水を口に流し込まれているような味だ。

 

じゃがいも、玉ねぎは突き刺さるような塩辛さが芯まで染みており、そのくせまるで生煮えかのように硬い。人参に至っては土気色でありおよそ栄養に満ちているようには感じられない。肉は見た目通り完全にしなびており味はまさしく岩塩のそれである。

 

今食卓には私一人だが、もしこれを見るものがあれば東京渡辺銀行に預金を下ろしに行くような表情をした男をそこに見つけるであろう。

 

全く好奇心は猫をも殺すというが行き過ぎた好奇心は確かに災厄をもたらす。

マズい料理を出したメシマズキャラはもれなく糾弾されるが、さもありなん、である。

 

3口目にして既に脳がこの肉じゃが、もとい海水味の野菜と肉の山を直視することを拒否、異形の物体から目を逸らしたままの食事となる。

 

皿の中身が2割ほど減ってからは体がこれを食物と認識しなくなる。具体的には嚥下に障害を来し水とともに流し込まねば飲み込めないのだ。

 

食事においてここまで肉体、精神を追い込まれたのはかつてラーメン二郎において調子こいて「ヤサイマシ背脂カタマリ*3!」なんてコールしてしまいういろうの如き背脂と天に届かんとするヤサイと対峙する羽目になった時以来である。

 

すこしでも気分を盛り上げるべく『おそ松さん』第3話の視聴を開始するが途中デカパンマンの「かりんとう」が登場するに至っては「かりんとう」のほうが遥かに食欲をそそったものである。

 

第3話の視聴が終了しても皿にはまだ半分ほどの海水が残っており、これ以上の詳述は避けるが艱難辛苦を乗り越え「砂糖と塩を間違えちゃったギャグ」はスタッフがなんとか完飲!この食事でペットボトルの水が1.5L消えた上、現在進行形で消費量が増えている。

 

当初の予定ではもう少しノリノリでこのブログ記事を書く予定であったが、出来上がったものがあんまりにもあんまりであり完全に精神がお通夜モードに切り替わってしまったため、こう、面白みのある文章になっているかは不明瞭である。申し訳。

読者諸兄におかれましてはメシマズキャラを実践するにあたっては「砂糖と間違って塩を入れる」のではなく「塩と間違って砂糖を入れる」よう自己防衛を図っていただきたく。

 

将来どんなに焦っても絶対メシマズキャラとお付き合いするのは避けような。

 

 

*1:日吉にある二郎系ラーメン店

*2:ッッセェェェェェェェェェェイッッ!!!!!!!!なラーメン店

*3:通常の「アブラ」とは異なり文字通り背脂のブロックがデン!とくる。今はなき二郎高田馬場店で見られた