三大秘境に挑む-3-

12:15 椎葉村滞在可能時間残り35分

 

椎葉村は九州の山奥にあり、wikipediaによると可住地面積は村域のわずか4%に過ぎない。しかし、その4%といえども各地に分散しておりとても35分で巡れるような場所ではない。

 

個人的には日本で唯一焼畑農業を継続しているという不土野地区や重伝建地区*1である十根川地区へ行ってみたかったが、どちらも上椎葉地区からは10km山道を行かねば着かぬということなので諦めた。村営バスが走っているらしいが時刻表はなく、料金も経由地も不明である。21世紀の今日に運行形態がまるで想像できないミステリーバスが存在するものかとも思うが、仮に都合のいいバスがあったところで30分では禄に見れないのだから気にすることでもない。

 

のんきに村営バスを見物しようなどと思わなければ近傍の上椎葉ダムくらいは見れたかもしれないが、これも諦めて目と鼻の先にある「椎葉厳島神社」へ参ることとした。やはり伝説の通り村の人々は平家の末裔なのであろう。神社はきつい石段を上り詰めたところにあり、良い運動になる。

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神社そのものは村の神社らしく小ぶりであったが最近建て直されたようで平成建築の匂いがした。

 

周りの玉垣も新しいがよく見ると寄進者の氏名が彫り込まれている。

驚くべきはその殆どが「椎葉」姓であったことだ。正確に勘定はしていないが半数以上は椎葉姓であった。平家の隠れ里ともなれば人の出入りも少なかったのであろう。今はどうだか知らないがかつては村全体が親類縁者だったのではないか。

 

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参拝を終えるともうバスの発車までは15分ほどしかなく、石段を転がり落ちるように下り町中へ戻る。

土産に椎葉名物の菜豆腐でも買おうかと思い開いているのかいないのか分からない商店を覗き込む。店主に菜豆腐について尋ねるも今は売っていないとあっさり言われてしまい参った。自分は旅行の下調べが足りない。「下調べなぞしないほうが現地で新鮮な感動や思わぬ発見を得られる」というのが持論だからだが時としてこうして宛が外れたり、特大の見ものを逃してしまったりするから一長一短である。

結局店に1つあった普通の豆腐と、帰り道で引っ掛ける酒を買ったが、豆腐は密封されたビニール袋に放り込まれているだけでありこの後家まで半日の旅の間中豆腐を潰さぬよう神経をすり潰す羽目になった。

 

結局神社を参拝しただけであったが12:50、帰りのイオンタウン日向行きバスに乗車。このバスは折り返しが塚原で打ち止めとなり、このバスに乗ると椎葉村へは帰れなくなる。そのためか乗客はまたしても私1人であった。

 

途中で人が乗ってくることも無いためかバス停で減速するなんて手ぬるいことはせず全速力でバスは通過していく。まえがきの記事にも書いたが上椎葉から塚原までのバス停は1日平均乗車人数0.1人未満というJR北海道のローカル駅もびっくりの利用実績なのである。利用者がいたら狐かなにかであるといっても過言ではない。

最も、始発となる上椎葉バス停も1日平均乗車人数は0.2~0.9人だそうなのであまり大差はないかもしれない。私が乗っただけで、今日の上椎葉バス停は平均を超える利用があったということなのだ。

 

バスは1つも途中停車をしないまま1時間後、再び諸塚村塚原バス停に到着した。

往路同様、10分の休憩がある。

 

ここで1人の年配の男性が乗車。私の姿を見てひどく驚いているようだった。狐と思ったかもしれない。

 

男性は私の座っていた後部座席の隣に座ると、「椎葉村から来たのか」と尋ねてきた。

旅行で椎葉村にバスで来た旨を伝えると、興味深そうに「長年このバスに乗っているが椎葉から人を乗せてきたのを見たのは記憶に無い」とつぶやいた。

 

そりゃあんまりだいくらこのバスに乗ったら最後その日のうちに椎葉村まで帰れない*2とはいえ一介のバス路線がそんな惨憺たる利用実績であって良いものだろうか、とも思わないでもなかったがそれよりもその口ぶりからこの男性は椎葉~日向市のバス路線を定期的に利用しているようであるという事実が気にかかった。

 

詳しく話を聞いてみるとこの男性は塚原のバス停の近くに住んでおり、週に何度かバスを利用して途中にある美郷町の西郷温泉に通っているとの事だった。帰りは塚原止まりの系統が遅い時間もあるのでそれに乗って帰るとの事だった。

 

ポンチョについては「このバスは前の席は外も見えづらいし落ち着かないしで好かん」「後部座席は私の指定席」とのことで、年配の方の乗り降りに配慮したノンステップも当の年配者には居心地の悪さで敬遠している人もいることが判明した。日野自動車哀れ。

 

「いつもは誰も乗っていないから貸し切りみたいなもので快適だ」

「年齢の問題で数年前免許を返納したがバスがあって便利でいいので困っていない。むしろバスは広々していて自分で運転したり、誰かに乗せてもらうよりはるかに良い(ご本人も近所の人も軽自動車ユーザーのようだった)」

「買い物で時々日向市にも行くがバスが便利だ。パスがあって温泉までは300円、日向市までは500円でいけるから助かっている」

 

とバスサービスについては極めて高評価であった。件の平均乗車人員のデータによれば塚原バス停の利用者は「1.0~9.9人/日」であるから、この男性は乗車人員数を増やすのに大いに貢献していることであろう。会話で出てきたパスは高齢者免許返納メリット制度による「悠々パス」のことだろう。

www.miyakoh.co.jp

利用実態としては正直なかなか厳しい路線ではあるが、こうして好感を持って利用している沿線住民がいることで、なんとなくこの路線も救われているのかなと感じる。

 

バスは温泉につき、男性は気をつけて帰りなさいと言いながら降りていった。

バスは再び私を上下左右に揺さぶりながら高速で山を駆け下りてゆく。

日向市近郊で1人乗客を拾ったが、それだけである。

バスは2時間20分余で日向市駅前に到着し、帰宅のためここで下車した。

結局往復でこのバスの利用者は私含め往復で3人ずつの計6人であった。ポンチョをもってしても完全に輸送力過大である。ハイエース等を用いたジャンボタクシーはおろかコンフォート等のセダンタクシーでも間に合ってしまうほどである。

 

そんな思いに浸る私を1台のバスが横切る。上椎葉行の最終バスだ。

 

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写真は前日の下見の際に撮影したものだが写真の通り普通のバスである。前日見た時は何らかの理由でポンチョが使えず代走で入ったものかと思っていたが2日連続で走っているとなれば定期的に運用に入っている可能性もある(検査等で2日以上ポンチョが投入できないだけかもしれないが)

チラと見る限り車内は無人であったから輸送力過剰の極地とも言える。

あの大ぶりの車体でポンチョでも難儀した椎葉の旧道狭隘区間を行くのは運転手にとっても苦痛であろう。お疲れ様である。

 

かくして、往復5時間のポンチョ旅行を完遂したわけであるが、乗ってみれば楽しい旅行であった。

 

旅行前某凍土高原氏と椎葉村ポンチョかはかた号かという話をしていたこともある。ぜひ彼のはかた号レポに期待したいところ…ではあるがなんでも最近のはかた号は快適でかつてのような愉快な旅行は望めないとの事だった。

ここはぜひ今度のダイヤ改正で登場した369M列車の全区間乗車記に期待したいところである。

 

 

 

*1:重要伝統的建造物群保存地区

*2:終点のイオンタウン日向まで行った場合。途中のバス停で降りれば別車両による上椎葉行き最終バスに乗れるが

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