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日本出国、海外進出

そもそも旅行なんて言うものは予定を立てているうちが一番楽しいのであり、いざ家を出てみれば自らの予定に追い立てられる。重たい荷物に手足は奪われる。そのうえ普段は建物の2階へ上がるのにもエレベーターを使うほどなのに旅先ではあの丘からの景色が良いなどと言って10階分の高さを駆け足で上がったりするものだから旅行が終わる頃にはすっかり心身が参ってしまう。

それでも予定を立てるだけではけして満足せず、しばらくすれば旅行へ行きたいと身悶えるのであるから旅行というのは全く不思議なものである。

 

私は海外なんぞにはてんで興味がなく、というよりこれを見ずに死ねるかという場所が国内にゴマンとあるため海外に行く気はサラサラ無いという立場である。

しかしそれを聞いた上司が、キミ、国内もいいが海外に出ていくのも大事だ、日本は世界の陸地のうちわずか0.1%*1だ、旅行好きといいながら残りの99.9%を見る機会を放棄していていいのかねとけしかけたものだから、まんまと口車に乗せられ旅券の申請なんぞしてしまった。

 

2017年1月午前7時40分 大崎駅西口

旅券を窓口で受け取ってから2日後、私は人生二度目の海外に向け大崎駅の西口にいた。

今回の行き先は台湾。台湾は海外旅行初心者でも比較的安心して旅行を楽しむことができるうえ、彼の地は大層過ごしやすく一度行くと何度も渡航してしまい姉妹には移住してしまうという。それほどまでに魅力的な地ならばなれない旅行手配も乗り越えて渡航してみたいではないか。

 

過去に一度海外旅行に出たことはある。そのときは旅行会社のパック旅行で、添乗員の方が行く先から手足の動かし方まで面倒を見てくれるので旅券さえ持っていれば目をつぶっていても旅行ができてしまう便利な代物だったが、当然まるで経験とならなかった。今回がはじめての海外旅行と言っても過言ではない。

ウィラーが空港アクセスに参入し、大崎から片道1,000円の「成田シャトル」を運行し先行する格安空港リムジンバス2社に勝負を仕掛けたのは昨年の10月末だが東京駅の行けども行けども目的地にたどり着かない広大な構内や、どこから湧いてきたのかと疑問を抱かずにはいられない人の大群に嫌気が差した人たちをターゲットに大崎なるややマイナーな駅を発着地に選定したのは慧眼といえるであろう。

 

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これから旅が始まるとなればなんてことのないターミナルの看板も俄然美しく、趣きのあるように見える。

バスはごく普通の車両があてがわれており乗車率は2割ほど。しかし帰国の途につくであろう外国人の姿も見え少なからず驚いた。「大阪から新大阪まで歩いていけますか」という質問が根絶できていないなか日本人であっても大崎の場所を正確に知っている人が何人いるかしれたものではない。

 

定刻7:45に発車したバスはほどなく首都高速に乗り、成田空港を目指す。

予定では9:15に第2ターミナルに到着するはずが、随分と早く8:40頃には着いてしまった。遅れてはならないと余裕を随分見込んでいるようだ。

 

今回搭乗するのはScoot。LCCに乗るのは初めてでなれない予約画面と格闘したため果たしてきちんと予約ができているものかと不安であったが予想に反してすんなり搭乗券が払い出されてしまった。流石に相手もサービス業とあっては流儀を知らぬ者相手であっても取って食うわけにはいかないのであるから安心してかかって良い。

一方はサービス業ではないから本当に取って食われかねない出国審査。税関吏に捕まったりはしないよう今回は荷物は肩下げカバン1つに抑えたのだが、コレでは却って怪しいかもしれないと汗を書きながら出国審査の列に並んだが、審査官氏は特に一言も言葉を発することはなくまるで機械のごとく出国の判を真新しい旅券に押すと親切でも失礼でもない、これまた機械的な手つきで旅券を返した。こうして自分でもあれあれと思っている間に出国手続きは完了し、法律上は私は日本国内を離れてしまった。

何度も海外に出ていく人からすれば何をくだらないことで心を乱しているのだと思われるだろう。自分もこの先何度か海外に行くことがあればもはやこの一連の流れになんの感慨も抱かなくなるに違いない。しかしこの「くだらない」出国手続きで緊張したり、制限区域に感慨を覚えたりという気持ちは初めての海外旅行でしか味わえないのだから大切に心に刻んでおかねばならない。

 

搭乗時間まではまだ1時間以上も時間があるのでここで私はなるべくターミナル内を歩き回って時間を潰すことにした。

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効率一辺倒ではつまらないとして作られたに違いない素晴らしき空間。お上にこのスペースの必要性を立証する必要にかられひとまず設置したのであろうベンチもいい味を出している。

 

私はどうも乗り物に弱く飛行機に乗った日には速やかにノビてしまうので搭乗したらさっさと寝てしまうことにしている。どうせ外は空と海しか見えない。つまりは事前に十分疲れておこうという算段である。

散々歩き回った後、ついに搭乗してみると座席が広くLCCなんか詰め込み仕様で膝から下を切らねば席につけまいとの先入観を打ち砕いてくれた。というよりもこれまで乗ったどの機材よりも広い気がする。これなら快適に眠れそうだ。

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英語の機内アナウンスを聞き取ろうとしているうちに飛行機は離陸。それに合わせてうまいこと寝ようと試みるが……

まぶしい。

窓が南向きになってしまい太陽光線が容赦なく照らしてくる。このままではビタミンDが過剰生成され人体に有害であるがカーテンのたぐいが見当たらない。こんなところでコストカットかと訝っていると窓の下にボタンが有る。おそらくはこのボタンで窓の遮光率を変化させるのであろうと察しがついたのだが。

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壊れとるやないか、ケシカラン。

押してみても反応はなく、ムキになってグイグイ押し込んでみたところ部品ごとドンドンめり込んでいってしまった。このまま押していくと期待外壁を突き破り客室内の急減圧を来し私は失神、其の間に破孔からは機体が分解を始めついには空中分解、「乗客の癇癪 - スクート201便空中分解事故」として『メーデー!:航空機事故の真実と真相』シリーズ入りを果たしてしまう危険性があったのでなんとか理性を取り戻しボタンを押す努力を取りやめた。

結局陽の光に顔を灼かれろくろく眠ることがかなわず、成田では無駄に体力を消耗しただけに終わってしまった。

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やがて明らかに日本とは異なる方角に山が見え始める。台湾島だ。島は厚い雲にとらわれ高山帯の一部が顔を見せるのみ。

飛行機が次第に高度を下げる。雲中に突入し機体はかすかな揺れを繰り返す。

おそらく機長は着陸に向けて慌ただしく操作を行っていることだろう。私も乳白色の外界を眺めながら飛行機酔いを自らの管制下におくべく禅の心を養う。

雲を抜けると灰色に染まった畑が、家が見える。道路は鈍い光をかえし窓ガラスには雨粒が流れ出す。

ドン、と衝撃があって機体は接地し滑走路を駆けてゆく。全力の制動動作で騒々しかった機内が静寂を取り戻す頃には外に繁体字でかかれた空港施設、道路の右側を走る管理車両が視界に入ってくる。いよいよ台湾に到着したのだ。

 

次回は台湾に降り立ちます。

*1:実際には0.25%ほどらしい